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歯列矯正治療中や保定中に気をつけて頂きたい癖

こんにちは。

自由が丘シーズ歯科・矯正歯科です。

 

普段の生活で歯並びや噛み合わせ、顎関節、顎骨形態に悪影響を及ばす様な癖についてまとめてみました。

 

1、歯を噛み締めてしまう癖

覚醒時(起きているいる時)の非機能時(食事以外の時)には上顎歯列と下顎歯列を接触させる癖は良くないとされています。本来、上の歯と下の歯は1日に15分〜20分程度しか接触しないのが正常とされています。弱い力でも接触し続けると、閉口筋(噛む筋肉)が休まらず、血流障害と痛みが生じるとされています。このような癖をTCH(Tooth Contacting Habit)と呼ばれ、安静空隙の消失を引き起こします。

 

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<参考文献>

木野孔司, 西山暁, ほか. 顎関節症患者における新しい寄与因子としての上下歯列接触癖(TCH)の検討. 日本顎関節学会雑誌. 2006; 18(3): 131-140.

Kino K, et al. Role of tooth contacting habit in patients with temporomandibular disorders. World J Stomatol. 2012; 1(5): 34-39.

 

歯の矯正治療中にTCHがあると、噛む力によって歯が動きにくくなったり、予想外の動きを引き起こしたり、歯根吸収にも関与していることも予想されます。またChengらの論文によるとTCHがある患者には筋痛患者が優位に多い事を明らかになっていますので、顎関節症の発症や悪化にも関与している可能性が高いです。したがって、起きている時間には歯を合わせないように意識づけすることが大切です。

 

2、舌突出癖 Tongue Thrusting

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舌突出癖が不正咬合や歯の移動を引き起こすメカニズムについては、矯正歯科分野で古くから多くの研究がなされています。

歯の位置は、舌からの圧力(内側)と頬・唇からの圧力(外側)のバランスによって決まると考えられています。たとえ弱い力であっても長時間歯を押し続ける習慣があると、このバランスが崩れ、開咬(オープンバイト)上顎前突(出っ歯)を引き起こします。

主なメカニズムは持続的な弱い力と嚥下(飲み込む)時の異常に分けられます。

  • 持続的な軽微な力: 歯は強い力(噛み締めなど)よりも、弱くても持続的な力(舌で押す、唇を噛むなど)によって移動しやすい性質があります。歯を動かすには強い力よりも弱い力でどれだけ長い時間その力がかかっているかが重要とされ、その閾値は6時間とされています。
  • 嚥下時の異常: 人は1日に600〜2000回飲み込み(嚥下)を行いますが、そのたびに舌が前歯を押し出すと、矯正治療をしているのと同様の力がかかり続けてしまいます。

<参考文献>

Proffitt WR. Equilibrium theory revisited: factors influencing position of the teeth. Angle Orthod. 1978; 48(3): 175-186.

 

たとえ歯の矯正治療で上顎前突や開咬を改善したとしても舌突出癖があると、後戻りしやすいことが明らかになっています。

そこで舌を出さない様にする意識づけとMFTと呼ばれる舌の訓練が大切になります。

 

MFT(口腔筋機能療法:Oral Myofunctional Therapy)は、舌や唇の筋肉のバランスを整え、正しく機能させるための「お口の筋トレ」です。


a. 舌の挙上訓練(スポットの意識)

舌の先端が常に正しい位置にあるように習慣づける、最も基本のトレーニングです。

  • スポット(Spot): 上顎の前歯のすぐ後ろにある、少し盛り上がった部分。
  • やり方: 舌先をスポットに置き、歯に触れないように維持します。
  • 目的: 舌が常に下顎にある「低位舌」を改善し、歯を内側から押し出す力を防ぎます。

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b. ポッピング(Popping)

舌全体を上顎に吸い上げる力を鍛える訓練です。

  • やり方: 舌全体を上顎にピッタリと吸い付け(ポンという音が鳴る直前の状態)、数秒間キープした後、「ポンッ」と音を立てて離します。
  • 目的: 舌を持ち上げる筋肉(舌骨上筋群など)を強化し、嚥下(飲み込み)の際に舌が前方へ突き出るのを防ぎます。

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c. スラープ&スワロー(Slurp and Swallow)

正しい飲み込み方を覚えるための実践的な訓練です。

  • やり方:
    1. 舌先をスポットに置く。
    2. 奥歯を軽く噛み合わせる。
    3. 口角を横に引き、ストローで吸うように「スルー」と音を立てて唾液を奥へ集める。
    4. 舌の形を維持したまま、喉の奥へ唾液を送り込む。
  • 目的: 飲み込む時に舌を突き出す「異常嚥下癖」を修正します。

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d. リップトレーナー(唇の訓練)

唇の閉鎖力を高め、外側からの「歯を抑える力」を強化します。

  • やり方: ボタンに紐をつけたものや専用の器具(りっぷるとれーなー等)を唇と歯の間に入れ、唇の力だけで引っ張りに耐えます。
  • 目的: 口呼吸を改善し、唇が常に閉じている状態(口唇閉鎖不全の改善)を作ります。

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これらを無意識の状態でもできるように訓練していく事が重要です。

 

3、前方頭位(頭を前に出した猫背姿勢)

下顎を後ろに押し込める事が顎関節症や関節円板の位置に影響を与える事はこれまでの研究で明らかにされてきました。

a. 概念の起源

歴史的に、下顎の後方移動と顎関節症の関連を最初に提唱したのは Costen (1934) とされ、臼歯(奥歯)の喪失などによって噛み合わせの高さが低くなり、下顎頭が後ろに押し込まれることで耳の症状や関節の痛みが生じると論じました。現在ではこの説のすべてが正しいとはされていませんが、「下顎のポジション異常が関節に影響を与える」という考え方の出発点となりました。

<参考文献>

Costen JB. A syndrome of ear and sinus symptoms dependent upon disturbed function of the temporomandibular joint. Ann Otol Rhinol Laryngol. 1934; 43: 1-15.

b. 骨格的な関連性(Class II / 下顎後退)

現代の論文では、下顎が後退している骨格(アングルII級、いわゆる「出っ歯」や下顎後退傾向)の患者において、関節円板のずれ(関節円板前方移位)が生じやすいという統計的報告が多くあります。Jungら (2015) の報告などでは、骨格的II級(下顎後退)の患者において、関節円板のずれ(Disc Displacement)の重症度が高くなる傾向が示されています。

<参考文献>

Jung W, et al. Relationship between the disc position and vertical skeletal pattern in patients with skeletal Class II malocclusion. Angle Orthod. 2015; 85(6): 1013-1019.

c. 頭位(姿勢)と下顎位の関係

姿勢が下顎を後ろに押し込み、関節に負担をかけるメカニズムを論じた研究もあります。猫背のように頭が前に出る姿勢(前方頭位)をとると、首の前の筋肉や軟組織が引っ張られ、下顎を後方に引き込む力が加わります。この持続的な力が下顎頭を後ろに押し込み、関節円板や関節後方組織を圧迫して顎関節症の原因になる可能性が指摘されています。

<参考文献>

Ohmure H, Miyawaki S, Nagata J, Ikeda K, Yamasaki K, Al-Kalaly A. Influence of forward head posture on condylar position. J Oral Rehabil. 2008; 35(11): 795-800.

・姿勢が下顎を後ろに引くメカニズム

頭が前に出ると、顎と首を繋いでいる筋肉や軟組織が引き伸ばされます。「ゴム」のような張力: 頭が前に出ると、顎の下にある筋肉(顎舌骨筋や顎二腹筋など)がピンと張った状態になります。この筋肉がゴムのように下顎を後ろ(および下)に引っ張る力として作用します。安静位の消失: 本来、リラックスした状態では上下の歯は触れず、下顎は自由な位置にあります。しかし、姿勢が崩れるとこのバランスが崩れ、常に下顎が後方に押し込められた状態になります。

 

・ 顎関節へのダメージ

下顎頭(下顎の関節の突起)が後方に押し込まれると、関節内では以下のトラブルが起こりやすくなります。関節円板の前方移位: 下顎頭が後ろに下がると、関節の中にあるクッション(関節円板)が前方に押し出されやすくなります。これが「カクカク鳴る(クリック)」や「口が開かない」原因になります。後方組織の圧迫: 関節の奥には神経や血管が豊富な「円板後部組織」があります。下顎が後ろに下がるとここを圧迫するため、強い痛みが生じやすくなります。

 

・関連する研究報告

顎関節症患者は健康な人に比べて、頭がより前方に位置している(Forward Head Posture)傾向があることが示されています。

 

姿勢についての対応

当院では以上の理由から普段の姿勢、特に猫背やスマホなどを見る時の姿勢を気をつけてもらうように指導しています。また姿勢がTCHを引き起こすとも言われています。

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姿勢と顎の関係を正常化するポイントは

1、耳の穴と肩の位置: 横から見た時、耳の穴が肩の真上に来るのが理想です。

2、胸を開く: 巻き肩を改善すると、首の前側の緊張が解け、下顎が自然に前方の楽な位置に戻ります。

3、「TCH」との関連: 姿勢が悪いと、バランスを取るために無意識に食いしばったり(TCH)、歯を接触させやすくなったりします。

 

監修者

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自由が丘シーズ歯科・矯正歯科 理事長 山口雅章

2005年昭和医科大学歯学部卒業、研修医終了後に昭和大学歯科矯正学教室勤務。2011年自由が丘シーズ歯科・矯正歯科開設。

所属:日本矯正歯科学会、東京矯正歯科学会、成人矯正歯科学会、日本舌側矯正歯科学会、日本包括的矯正歯科学会、日本顎関節学会、日本デジタル歯科学会、日本3Dプリンティング矯正歯科学会